そう、あの時僕は20代。行く宛もなくただただ渋谷の街を彷徨っていたんだ。どうしようもなかった。田舎から出てきた若造。地元では修羅場の1つや2つ経験してきたけど、所詮はこの大都会に出てみれば一匹の野良猫だった。もう戻れない田舎の景色や、あいつの最後の瞬間の顔が瞼の裏に焼き付いて離れない。けど、もうなにもかも置いて来たんだ。懐古なんて野暮だ。帰る場所もなく心神喪失の僕。そんな時に現れたのが彼だった。彼は僕を誘ったんだ。僕が未だ知らない世界へ導いたんだ。彼は「試させてくれ、謝礼は払うから」なんて言うから、もうなんでも良かった。すべてを失い切って出てきたこの街。